「天然ダイヤモンドは、どこから来たのか分からない」。長くこの業界に向けられてきた問いに、いま技術と規制で突破口が見えつつあります。
先にお断りしておくと、私たちはラボグロウンダイヤモンドを扱う立場です。それでも同じ産業の一員として、天然の世界で起きていることを、できるだけ正確に、中立にお伝えしたいと思いました。産地は本当に追えるようになったのか。仕組みと限界を、事実で見ていきます。
30秒でわかる、この記事
天然ダイヤの弱点は「産地を辿れない」こと。原因は、国境を何度もまたぐ長い流通にあります。
いま、3つの技術がその弱点を埋めつつあります。記録のTracr、指紋のSarine、裏づけのGIA。
「全部が透明になった」わけではなく、3条件が揃った石だけが検証できる天然ダイヤモンド。
天然ダイヤモンドの4つの数字
ロシア
インドの一都市に集中
原石の数
研磨石の基準
なぜ、産地が辿れないのか
答えは、一粒の旅の長さにあります。天然ダイヤモンドは採掘、研磨、セッティングという三段階を経てジュエリーになりますが、その舞台は世界中に散らばっています [1][2][3]。

この長い旅のどこかで記録が途切れると、産地は分からなくなる
とりわけ、国際社会の制裁下にあるロシア産(産出量では世界一)が、産地を偽って別ルートで流通するケースは、この構造がもたらす最大の弱点でした。

どうすれば、“追える天然”になるのか
道は二つあります。ひとつは、採掘の直後に自分の目で原石を確認して買い付けるやり方。確実そうに見えますが、それを許すような採掘場ほど管理がゆるく、かえって混入リスクを抱えます。量も確保できません。
現実解はもうひとつの道、技術で追跡することです。原石の段階で形状と特徴をデジタル登録し、以後の旅をすべて記録する。その仕組みを支えるのが、次の3つです。

Tracr(トラッカー)|記録する
- 業界最大手De Beersが開発したブロックチェーン台帳
- 登録された原石は、すでに500万個超
- 2026年5月にGIAが30%を出資し、一社のものから業界共通のインフラへ [4]
Sarine(サリネ)|証明する
- 石の内部のインクルージョン(内包物)を3Dで精密にマッピング
- 原石が削られて姿を変えても、内部の指紋は変わらない
- 「目の前の石は、登録されたあの原石だ」を、データで証明します [5]
GIA(米国宝石学会)|裏づける
- 磨き上がった石から産地を言い当てる方法は、科学的にはまだ確立されていない [6]
- ダイヤモンドは、産地ごとの化学的な差がとても小さい石だから
- そこでGIAは石ではなく、原石からの途切れない記録を読みます
だからGIAは、石を読むのではなく記録を読みます。原石の段階でスキャンし、削り出された石と照合する。産地の信頼性は、原石からの途切れない記録によって担保されます。3つの技術が連携し始めたのは2023年からで、記録がつながった石なら「産地を検証できる天然」と呼べる水準に達しています [4][5][6]。

それでも、穴は残っている
正直にお伝えします。この仕組みは完成形ではありません。穴は3つあります。
① 台帳に載る前の、混入。石が掘り出されてから台帳に登録されるまでには、時間と場所の隙間があります。その間に、記録のない石がまぎれ込む可能性はゼロではありません。そもそも、この仕組みに参加していない鉱山もあります。
② 書類のすり替え。書類がひと通り揃っていても、それが「別の石の書類」である可能性は残ります。届いた石と登録データを照合すれば見抜けますが、それができるのは、最初に登録されている石だけです [5]。
③ 買う人には、最後まで確かめきれない。鑑定書の番号を照会したり、刻印を確認したりまでは、買う人にもできます。ただ、巧妙なすり替えを個人が見抜くのは現実的ではありません。だから最後は、どこで買うか、誰を信じるか、に行き着きます。透明性の時代ほど、店の信用が重くなる理由です。
G7の規制で、何が変わったか
| 年代 | 何が起きたか | 意味 |
|---|---|---|
| 〜2023年 | 紙の証明書(キンバリープロセス)が主流。産地偽装が構造的課題 [8] | 「疑わしい天然」の時代 |
| 2024年 | G7がロシア産を段階的に禁輸。1月に直接輸入、3月に第三国経由、9月には0.5ct以上へ拡大 [7] | 政治の力でグレーな石を締め出す包囲網 |
| 2023〜25年 | Tracr・Sarine・GIAのデータ連携が拡大 [4][5][6] | 「証明できる天然」が形になった |
| 2026年 | 0.5ct以上の研磨石に原産地の確認が義務化。ただしデジタル追跡の利用はまだ任意 [7] | 前進、ただしなお途上 |
注意したいのは、この転換が「完成」ではなく「途上」だということです。デジタル追跡の義務化は延期が続いており、非G7市場にはロシア産が流れ続けています [7]。
ANNA DIAMONDの見方
天然ダイヤモンドの透明性は、「すべてが透明になった」のではなく、「3つの条件が揃った石は、検証できるようになりつつある」。これが2026年の正確な現在地だと、私たちは認識しています。
そして、産業全体の透明性が上がることは、私たちにとっても追い風です。出所を誠実に語れる天然と、そもそも素性の明快なラボグロウンダイヤモンド。その両方がそれぞれの誠実さで並ぶ市場でこそ、石の価値は正しく伝わります。だから私たちは、天然の透明化を、同じ産業の一員として期待し、応援しています。

市場全体の動きはダイヤモンド産業レポート Vol.1で、天然とラボグロウンの違いはこちらの記事でお読みいただけます。
よくあるご質問
Q. 天然ダイヤモンドの産地は、本当に分かるようになったのですか。
Tracr・Sarine・GIAの3つの記録が揃った石なら、産地をデータで確かめられるようになりつつあります。ただ、揃っていない石のほうがまだ多いのが現状です。「全部が分かるようになった」ではなく、「揃った石なら分かる」が正確な答えです。
Q. ロシア産のダイヤモンドは、日本でも規制されていますか。
はい。日本もG7の一員として、2024年からロシア産の輸入を段階的に規制しています。2026年からは、0.5カラット以上の石について「どこで採れたのか」の確認が求められるようになりました。
Q. ANNA DIAMONDは、なぜ天然を否定しないのですか。
天然には天然の魅力と物語があり、透明化の努力も着実に進んでいるからです。私たちは優劣をつけるのではなく、それぞれの価値と課題を正確にお伝えしたうえで、素性の明快なラボグロウンダイヤモンドを新しい選択肢としてご提案しています。
日本語で、ダイヤモンドのサプライチェーンの現在を俯瞰して読めるものが見つからなかったため、最新の情報を自ら調べ、業界内外へのヒアリングを重ねてまとめました。産業は日々動いています。お気づきの点があれば、お気軽に教えてください。非商業目的であれば、出典URLを明記のうえ転載・引用を歓迎します。
[1] 2024年の国別産出量シェア:Kimberley Process統計(rough-polished.expert, 2025)
[2] ドバイが世界最大の原石取引ハブに:Rapaport/DMCC発表(GJEPC Solitaire)
[3] 研磨の約9割がインド・スーラト:Natural Diamond Council
[4] Tracr(登録500万個超・GIAが30%出資 2026年5月):De Beers Group/GIA
[5] Sarine Diamond JourneyとTracr連携(2023年〜):De Beers Group
[6] GIA Diamond Origin Report(研磨石単体からの産地特定は現時点で不可能):GIA/Gems & Gemology, Fall 2022
[7] G7制裁のタイムラインと義務化の延期:Antwerp World Diamond Centre/National Jeweler(2025)
[8] キンバリープロセスの構造的限界:AIDI(2025)/KP Civil Society Coalition(2025)
文・調査:土谷健斗(株式会社Breval)/編集:ANNA DIAMOND編集部
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