この度ANNA DIAMONDは、ニューヨーク在住のアーティスト Yuko Nishikawaさんとともに、世界でひとつのアート作品を制作しました。
作品ページ:あこや貝の第2の人生:ピタピタ跳ねる
素材は、アコヤ貝の貝殻と、貝殻から開発されたブランドオリジナル釉薬。
ジュエリー制作では真珠が主人公となりますが、今回は真珠をとりおえた貝殻を主人公に迎え、これまでにないアプローチでのものづくりに取り組みました。
2025年春、この作品のお披露目トークセッションを、代官山ANNA DIAMOND Galleryで開催しました。
今日は、そのトークセッションの内容とともに、作品がどのように誕生したのかをご紹介します。
2025年5月6日に開催されたローンチイベント“Shape the Light”より。
登壇者は、アーティスト・Yuko Nishikawaさん(中央)、キュレーター・板橋令子さん(右)、ANNA DIAMOND デザイナー・森春菜(左)。
ANNA DIAMONDについて
ANNA DIAMONDは、色や形が個性豊かな真珠や、役目を終えた電子機器から取り出された金属、使い道のなかったアコヤ貝の貝殻など、
これまでの消費社会では焦点が当てられなかった素材と向き合い、ジュエリーを制作するブランドです。
素材の可能性に向き合い、そこに新たな光を与えること。
その一連の物語を通して、社会に希望を発信したい。
それが、私たちの創作の原点です。
この考え方は、ジュエリー制作にとどまらず、アートや空間演出にも広がっています。
たとえば、ギャラリーの壁には貝殻を砕いてつくった漆喰を使い、素材の背景を空間にも反映させています。
そんな私たちにとって、今回アート制作に手を伸ばしたことはとても自然なことでした。
1. 出会いは長文のメッセージから
さて今回の共作のきっかけは、私がYuko Nishikawaさんに送った1通のメッセージでした。
Yukoさんの、子どもの頃の自由な感覚を思い出させてくれるような作品の数々、私は以前からその世界観に強く惹かれていました。
そんな想いや、ANNA DIAMONDを通して実現したい"優しい世界"について綴ったラブレターのようなメッセージに、Yukoさんはすぐに「ぜひ話しましょう」とお返事をくれました。
お返事をいただけるとは夢にも思っていなかったので、それはそれは大喜び。
後日なぜお返事をいただけたのか伺うと「この人と、このブランドと、ものづくりをすることにワクワクしたから」と仰っていただけたことが、今でも心に残っています。
[ Yuko Nishikawa さん プロフィール]
アーティスト / デザイナー。
ファッション工科大学卒業後、インテリアデザイナーとして活動。
その後 10年間、ラグジュアリー向けの照明や家具デザインを手がける。
2018年 にデザイナー、アーティストとして独立。
独自の素材感と色彩感覚を活 かし、照明やオブジェ、インスタレーションを制作。
再生紙や陶器、粘 土など様々な素材を用いた作品は、空間に詩的なリズムとあたたかさを もたらす。
現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動。
IG:@yuko_nishikawa
3. 始まりの言葉「AM7:00の光」
制作の出発点となったのは、私がYukoさんに送った一節のメールでした。
「朝7:00の光」、「過去と今の境界線」、そんな言葉が浮かんでいます。
世の中ではさまざまな出来事が起こり、ときに悪いニュースばかりが目立ちますが、
そんな中でも心の中に静けさを作ること、
そして過去と今を一度区切り、
過去のモヤモヤは過去に置いて、
真新しい気持ちで今を生きること。
そんなことに繋がる作品になればと思っています。
朝7:00、寝起きにコーヒーを淹れながら、
カーテンの向こうから少しずつ顔を出す控えめで真新しい光を見ると、
一度がリセットされ、とても前向きな気持ちになります。
今日という1日の新たな出会いや喜びに胸を膨らませる、そんな瞬間です。
今回制作いただく作品を見たときに、
この「朝7:00の光」を見たときと同じような精神になれることが理想です。
4. 《ピタピタ跳ねる》という作品
先ほどのメッセージを皮切りに、本格的な制作が始まりました。
今回の主役である、貝殻や貝殻由来の釉薬は、代官山のANNA DIAMOND Gallery からYukoさんのブルックリンのアトリエにお送りしたもの。
そもそも、これらをニューヨークへ送るには輸出入の申請や手続きが必要で、素材が無事にブルックリンのアトリエに届くかどうかは五分五分の可能性でした。
そんな状況下で、Yukoさんから素材の受け取りのご連絡をいただき、この作品の明るい未来を確信したことをよく覚えています。
無事に素材と言葉を受け取ったYukoさんは、それに触れたり、割ったり、針金でつなげたり、焼いてみたりしながら、少しずつ素材との対話を始めました。
完成像が決まっているわけではなく、素材とのやりとりを通じて育っていくような制作過程。
こうして生まれたのが、《ピタピタ跳ねる》というタイトルのモビール作品です。
イメージの源泉となったのは、Yukoさんが旅先のテキサスで見た風景でした。
乾いた崖の谷間を歩いていたとき、朝日が差し込み、小さな虫たちがふわりと光に跳ねていた。
きらきらと、太陽の光を取り込み、光を反射するそのさまが「AM7:00の光」というテーマと重なったのだと教えてくれました。
5. 根底にある共通点
私は初めてこの作品を見たときに感じたことは、
「押しつけがましい底なしの明るさではなく、人生の、良いことも悪いことも、静かに受け止めてくれるような寛容な明るい精神」です。
そのとき、私がずっとYukoさんの作品に、惹かれていた理由が分かった気がしたのです。
ANNA DIAMONDのジュエリーと、Yukoさんのモビール作品。
ジャンルは違えど、私たちにはひとつ、大切な共通点があったのです。
それは、作品に愛があること。
「せっかく作るなら、優しいものを届けたい」
Yukoさんは「見る人が安心できるものを生み出したい」と話し、
私は「10歳年下の妹ANNAが大人になるころ、少しでも前向きな世界であってほしい」と願って、ブランドを続けています。
違う手法や制作物でも、伝えたいことは、愛、希望、前向きな精神。
そうした共通点もあいまって、私は、Yukoさんの作品に惚れ惚れとしていたのかもしれません。
6. ギャラリーとの呼応
《ピタピタ跳ねる》は、代官山 ANNA DIAMOND Galleryの中央に展示されました。
この空間の白壁には、アコヤ貝の貝殻を細かく砕いてつくった漆喰が使われています。
作品と空間が、同じ素材からできていること。
それだけで、作品がこの場所に自然と溶け込んでいるように感じられました。
ずっと前から、この場所にくることを夢見ていた子どものような、
そんな自然な一体感がそこにはありました。
7.おわりに
ANNA DIAMONDのものづくりは、「素材の可能性」と向き合うことから始まります。
今回の共作も、使われなくなった素材に、新しい意味と物語を与えるものでした。
Yukoさんとの対話を通して、素材、人、空間、時間が、ゆっくりとつながっていく感覚があり、それはそれは贅沢な時間でした。
これからも、ジュエリーという枠にとらわれず、幅広いものづくりに挑戦していきたい、
そして、それを通じて、希望を形にして、より前向きで、愛のある社会に貢献していきたいと思っております。
前例がない中での手探りでの制作を、快く受け入れてくださった アーティスト Yuko Nishikawaさん
トークセッションで、作品の魅力を、存分に深ぼってくださったキュレーター 板橋令子さんに感謝を込めて。
番外編:Yukoさんのアトリエを訪ねて
作品の完成後、私はブルックリンにあるYukoさんのアトリエを訪れました。
扉を開けた瞬間、「子宮の中にいるような感覚だ」と思いました。
静けさ、遊び心、無邪気さ。
空間そのものが、彼女の作品世界をそのまま表しているようでした。
安心するのに、少しふしぎで。
ふしぎなのに、どこか懐かしい。
あの空間で感じたことも、この作品の一部として、私の記憶に残っています。